ミャンマー計画財務省は2018年10月29日付にて、掛取引による商品の売買やサービスの提供に係る商業税を相殺する方法についての通達を発表した。商業税の運用については規定の解釈の幅が広く、細かな運用の指針が不足しているため、現場において運用の間違いや当局との見解の相違が散見される。通達についても商業税に限らず、何度も訂正が行われたり、いまだ不安定な面がある。それを踏まえ、新たに定められた本通達を考察してみたい。
下記は、2018年10月29日付当局発表の通達を弊事務所において意訳したものである。
ミャンマー計画財務省発表・通達番号3/2018:2018年10月29日付
「掛取引による商品の売買やサービスを行う者に関する商業税の相殺方法」
1. 内国税務署は、商業税法第55条(b)の通り、商品の掛売買やサービスの掛取引を行う者に向けて、商業税を相殺する方法につき、より周知するため、この通達を行う。
(詳細)
2. 本通達は、商品の掛売買やサービスの掛取引を行う者が商業税を相殺する方法について、より周知するためのものである。
(本通達に関係する者)
3. 本通達は、商業税法により登録された下記の者に影響する。
(a) 国内で商品を製造する者
(b) 海外から商品を輸入する者
(c) 商品の売買を行う者
(d) サービスを提供する者
(通達の説明)
4. 商業税法第42条の通り、
(a) | 商品を製造する者は、製造する商品を販売する際に係る商業税を「商品を製造するため海外から自ら購入した商品に関し国内到着時までに支払った商業税、他の製造者、販売者、海外から輸入する者から買い取った商品につき支払った商業税、商品を製造するために利用したサービスにつき支払った商業税」と相殺できる。 |
(b) | 海外から商品を輸入して販売を行うまたはサービスを提供する者は、自らが販売する商品または提供するサービスに係る商業税を「海外から自ら購入する商品に関し国内到着時までに支払った商業税、国内において買い取った商品について支払った商業税、国内で利用したサービスについて支払った商業税」と相殺できる。 |
(c) | 商品を海外から輸入する場合、輸入者は、商業税様式(32)(Ka Tha Kha 32)を2部作成して1部を所轄税務署へ提出、1部を自社で保管する必要がある。 |
(d) | 国内で売買する場合、販売する者は、商業税様式(31)(Ka Tha Kha 31)を3部作成して1部を顧客に渡し、1部を所轄税務署へ提出、1部を自社で保管する必要がある。 |
(e) | サービス提供業者は、サービス代金と一緒に受領した商業税に関し、商業税様式(31)(Ka Tha Kha 31)を3部作成して1部を顧客に渡し、1部を所轄税務署へ提出、1部を自社が保管する必要がある。 |
(f) | 購入者・サービス利用者は、税金相殺手続きが完了したことを証明するため、商業税様式(33)(Ka Tha Kha 33)と共に、販売者、サービス提供業者から受領した商業税様式(31)(Ka Tha Kha 31)を所轄税務署に一緒に提出し、相殺手続きの報告を行うこと。 |
(g) | (企業オーナーの※)固定資産取得のために支払った商業税は相殺できない。 |
(h) | 損害を受けた商品、販売しない商品に係る税金は相殺できない。 |
(i) | 商業税相殺は、ミャンマー税法に相殺不可と定められている商品には適用しない。 |
(j) | 支払うべき税金から支払った商業税を相殺する場合、支払った商業税が過大となっている場合は、相殺後の残額を企業の損金として所得税計算上、控除できる。 |
※税法原文をそのまま翻訳
(守るべき定め)
5. 国内において、商業税法の通りに登録した、商品を製造または販売する者、海外から商品を輸入する者、貿易を行う者、サービスを提供する者は、
(a) | 自らが販売・提供する商品およびサービスに係る商業税を「商品を購入する際、輸入する際、サービスを利用する際に支払った商業税」と、商業税法第42条の通り相殺できる。 | ||||
(b) | 損害を受けた商品、販売しない商品に係る商業税は相殺できない。 | ||||
(c) | 買掛購入の商品、掛払いサービスに係る商業税は、販売する者、サービス提供者に代金を実際に支払う月に相殺できる。 | ||||
(d) |
購入時に支払った商品およびサービス代金に係る商業税は相殺できる。しかし、 (1) 購入した商品については販売済みとなっている必要がある。 (2) 損害を受け販売できない商品には適用しない。 (3) 購入した固定資産に係る商業税は相殺できない。 |
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(e) | 事業者が支払うべき商業税から、商品およびサービスにつき支払った商業税を相殺する場合、当該支払った商業税が過大となる場合は、相殺後の残額を事業者の経費として所得税計算上控除できる。 | ||||
(f) |
相殺する場合、手続きのため商業税様式(33)(Ka Tha Kha 33)と共に、所轄税務署に下記の様式を提出する必要がある。
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6. 事例による説明
(1)“A”社は、電気製品を販売する事業会社です。2018年4月12日に、製造者“B”社から電子レンジを仕入れました。電子レンジの代金総額は4,000万チャット、商業税は200万チャットです。
“B”社は2018年4月14日に“A”社に請求書を発行しました。
“B”社は、電子レンジの販売について4,200万チャットを2018年4月30日に受け取る予定でした。
“A”社は仕入れた電子レンジを2018年4月に顧客に販売しましたが、“B”社への支払いは同年6月14日に行いました。
(2)守るべき定め
“A”社は、“B”社より2018年4月30日支払期限の請求書を受け取りましたが、同年6月13日までは支払いをしませんでした。従って“A”社が仕入れ時に支払った商業税200万チャットについては「販売時に受け取った商業税」と同年6月末以降、つまり翌月10日までに納付する同年6月分商業税納付時に相殺できます。同年4月分の商業税納付時には仕入れ代金は未払いであったため、仕入れに係る商業税200万チャットは、相殺できません。
“A”社は、自社が商品を販売したときに顧客に請求した商業税と“B”社から商品を仕入れた際に支払った商業税とを相殺するために“B”社が発行した商業税様式(31)(Ka Tha Kha 31)の原本を所轄税務署に提出する必要があります。
“A”社は、“B”社から電子レンジを仕入れる際に支払った商業税のうち、損害を受けた商品および販売しない商品に係る額は相殺できません。
“A”社が電子レンジを販売する際に請求した商業税が200万チャットより少ない場合には、差額をその年度の損金として所得税計算上、控除できます。
1) ポイント
本通達の主なポイントは、下記の通り。
- 商品代金またはサービス代金について掛取引により仕入れ先などに支払う商業税は、実際にその代金を支払った後でないと、売り上げに係る商業税との相殺ができない。
- 破損した商品や、販売していない商品の仕入れなどに係る商業税は、相殺できない。
- 固定資産に係る商業税は相殺の対象とならない。
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過大に支払った商業税については、還付は行わず、所得税法上の損金処理となる。
2) 分析
今回の通達においては、主に小売り・卸売販売を事例としての説明がなされているが、サービス業においてはどのような取り扱いとなるのか、期をまたいで行う取引の処理について、適正に当局に認めてもらえるのか、過大に支払った商業税の意義や範囲について、どこまでこの規定を運用するのかなど、まだ不明瞭な点も多い。
当局による指針の明確化は、予測可能性および法的安定性の見地から望ましいものといえるが、まだまだ通達や指針が不足している状態のミャンマー。取引に過大なインパクトを与える商業税について、今後も引き続き運用の方向性に注目する必要があろう。