ミャンマーでの事業における福利厚生の実情と会計処理について

概要

 
ミャンマーでビジネスを行うに当たって、望ましい人材の確保や離職率を下げることは、最も重要な課題の一つである。日系に限らず各企業は、独自の工夫を凝らして人材マネジメントを行っている。また税務上は、外形標準的に否認される事例が散見されるため、会計上の処理項目などについて工夫が必要であろう。
 

概説

ミャンマーでビジネスを行うに当たって、望ましい人材の確保や離職率を下げることは、最も重要な課題の一つである。日系に限らず各企業は、独自の工夫を凝らして人材マネジメントを行っている。現在のミャンマーにおいては、かつて日本で見られた家族的経営や、学校のような組織風土が求められている場面も多い。しかしその半面、ジョブホッピングが頻繁に行われるなど、流動的な厳しい人材市場であるともいえる。
また税務上は、外形標準的に否認される事例が散見されるため、会計上の処理項目などについて工夫が必要であろう。

オフィス勤務者のケース

誇りを持って働けること、キャリアとして見栄えがいいこと、資格が取得できること、特別な福利厚生・特典があることなどが、職場を選んだり、働き続ける上で大きなモチベーションとなる。少しミーハー的な要素もあるといえる。働きながら各種学校に通学したり、セミナーに参加したり、研修旅行に参加したりと、自分のスキルを上げることについて皆、貪欲である。通学期間が終わると退職してしまうといった事例も間々あるため、雇用契約において一定期間内の退職について、学費実費返金の条項を記載している例も多い。
 
また、社員旅行は必須といわれており、各月の誕生日会、年に何回かの仏教関連の行事なども重要である(ミャンマー企業では一般的である)。
通勤手段については、バスや家族による送り迎えなどが一般的であるが、社用車での送り迎えやタクシー代の支給などがある企業が人気である。
この他、個人の携帯電話を仕事上使用する場面が多く、通信費が高いため、電話代の支給も割合に一般的である。
 
大きくきれいなビルに入っていること、セキュリティーカードの支給があること、オリジナルの制服があることなど、見栄えを気にするともいわれるミャンマーっ子にとって、カッコよさは重要である。細かな点がモチベーションアップにもつながっているという話もあり、驚かされる。
日系企業に就職する人材は、いつかは日本に行ってみたいという思いを抱いている社員も少なくないので、日本での研修などは大きなモチベーションアップにつながる。
賞与については、企業の規模などによって異なり、支給なし~5カ月分など幅が見られる。昇給については、年1、2回の企業が多い。

工場勤務者のケース

インフラの整備はまだ十分とはいえないが、製造業の進出も近年急増している。工場地区によって、人材確保の困難の度合いは大きく異なる。
ヤンゴン郊外の工場などでは、通勤手段として送り迎えの車(フェリーと呼ばれる乗り合いトラック)の確保が必須である。フェリーについては、月間の使用料が1台数十万円と高額であり、事業計画上大きなインパクトがあるので注意が必要である。
また、人材確保の困難な地区では、地方から集団で勤務者を招いて、寮を建設し食事も提供して生活の全てを保障している場合もある。
オフィス勤務者と同じで、誕生日会や運動イベント、仏教関連の行事なども重要である。仏教徒が多い工場では、立派な仏像を祭り、花を手向け祈りを欠かさないようにするなど、宗教への畏敬の態度も重要である。
 
おそろいの制服を貸与したり、早朝出勤手当、まき割り手当(ボイラーなどを使用する工場などで使うまきに関する手当)、自転車通勤手当、ガソリン手当などなど、独自の手当を決めて支給している例も多い。大きな工場では、お昼休みに外部の屋台を誘致していたり、専用食堂を完備している所も見受けられる。
 
組合との調整も非常に重要である。福利厚生についても細かく厳しい交渉があり、場合によってストライキ突入のリスクも低くはないので注意が必要だろう。
賞与に関しては、正月休み前に支給する企業が多い(政府系の企業が一斉にこの時期に支給する)。

税務上の取り扱いなど

税務においては、過剰な福利厚生について、否認事例が散見される。高額な社員旅行、駐在員や役員その他の従業員に対する特別な利益供与(自宅にかかる費用や設備の負担などの他、特別な経済的利益の付与)などの否認事例もある。
どういったものが福利厚生費として認められるのかという細かな通達などの指針がなく、売上金額に対応して外形標準的に否認されるといった状況もあり、計上科目の工夫などが必要である。
 
通信費やタクシー代などは、手当として現金支給をすると給与課税の対象となるため、現物で支給しバウチャーを保存しておくとよい。
借り上げ社宅などについては、企業名で契約を交わし、寮として取り扱う場合は、個人所得税課税対象とはならない。契約の際は、正しい金額の印紙の貼付も忘れないようにすることが必要である。さかのぼっての支払いはできず、過怠税は、本来の税額の10倍である。

まとめ

今の日本では敬遠されることも少なくない社員旅行や誕生日会などの企業のイベントも、ミャンマーのスタッフは楽しい催しとして受け入れてくれる場面が多い。SNSが盛んなミャンマーでは皆、自社のイベントを誇らしげにアップし、他人の企業のイベントと比較したり、口コミを投稿したりすることも盛んである。ミャンマーに貢献する企業の社会的責任(CSR)活動についても、企業の知名度と価値を高め、スタッフのモチベーションアップにつながるので、ぜひ取り入れていきたいものである。

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