令和6年度税制改正大綱 ~中小企業向け 賃上げ促進税制~

先日、令和6年度の税制改正大綱が公表されました。
今回の税制改正大綱では、所得税・住民税の定額減税、子育て支援に関する政策税制、扶養控除などの見直し、賃上げ税制の拡充、等が具体的内容として盛り込まれています。
そこで今回は、令和6年度の税制改正大綱の中から、「賃上げ促進税制」について、その要旨を「中小企業向け」に絞ってお伝えしようと思います。

 

■令和6年 賃上げ促進税制の改正点
(1)雇用環境を改善するために、教育訓練費の上乗せ要件が緩和されました。
(2)働きやすい職場作りへのインセンティブとして、子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進の取組みに積極的な企業への控除率の上乗せ措置が講じられました。
(3)最大控除率が拡大されたことを受け、控除限度超過額の繰越が可能になりました。

 

■適用要件
「適用年度の雇用者給与等支給額≧比較雇用者給与等支給額×101.5%」であり、この条件に変更はありません。

”雇用者給与等支給額”とは、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額を言います。
これが適用年度において前年度から1.5%以上増えていることが必要になります。
まずはこの点を充足するか否かを検証してみてください。
なお、注意点があります。
●給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額は除く(国から受け取った補助金、助成金等は除外する)。
●国内雇用者とは、労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者をいいます。
なお、詳細は省きますが、租税特別措置法関係通達42の12の5-1の4によると、一定の場合は通勤手当も給与等に含めることが可能です。

 

■控除率~給与等の増加割合
給与等の増加割合は、雇用者の給与等の増加割合で判定します。
前年度から1.5%以上2.5%未満の増加があれば、控除率が15%となり、2.5%以上の増加があれば控除率は30%となります。

例)ある会社の前年の雇用者給与等支給額が6,000万円、今年の雇用者給与等支給額が6,200万円だった場合は2.5%以上の増加に該当するため、(6,200万円-6,000万円)×30%=60万円が法人税から控除できます。
ここで、最終的な法人税額が2,500万円と計算されたとすると、実際の納付額は2,500万円-60万円=2,440万円となります。

 

■控除率~教育訓練費による上乗せ加算
こちらも従前からある項目ですが、改正前は教育訓練費の増加割合として10%以上が求められていましたが、
令和6年税制改正において、「教育訓練費の増加割合が5%以上、かつ、教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上」となりました。
前段は増加割合の緩和(10%以上⇒5%以上)となっており、要件を充足しやすくなっています。
ただし、あまりに少額な教育訓練費の枠内で達成するということは制度趣旨から望ましくないため、最低水準が要件として追加されました。

この教育訓練費の増加割合を達成した場合、控除率は10%の上乗せ加算となります(上乗せ率は変わっていません)。

教育訓練は、会社が自ら行う場合のほか、他の者に委託して行う場合や他の者が行う教育訓練の場に参加させることも対象になります。
なお、教育訓練費の明細書(実施年月、実施内容、受講者、支払証明)は”保存”義務となっています。

 

■控除率~働きやすい職場作りや子育て・仕事両立支援、女性活躍推進による上乗せ加算
令和6年税制改正で新設された項目です。この要件を満たす場合、控除率は5%の上乗せ加算となります。
従前から女性活躍推進法を意識して対応を図っていた場合は比較的容易にクリアできると思いますが、皆様の場合はいかがでしょうか。
基本的には、”くるみん認定”を受けるか、もしくは、”えるぼし認定(2段階目以上)”を受けることで控除率の上乗せが実現します。

 

●くるみん認定とは?
子育てサポート企業に対して厚生労働大臣から受けられるお墨付きのことです。
仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組んでいる企業を応援する制度になります。
この認定を受ける基準は以下となります。

1)次のいずれかを満たしていること
・計画期間における、男性労働者の育児休業等取得率が10%以上であること。
・計画期間における、男性労働者の育児休業等取得率および企業独自の育児を目的とした休暇制度利用率が、合わせて20%以上であり、、かつ、
育児休業等を取得した者が1人以上いること。

2)計画期間における、女性労働者の育児休業等取得率が、75%以上であること。

3)計画期間の終了日の属する事業年度において、次のいずれも満たしていること。
・フルタイムの労働者等の法定時間外・法定休日労働時間の平均が各月45時間未満であること。
・月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいないこと。

この基準については、労働者数が300人以下の場合に特例があります。

1)の”計画期間内に男性労働者の育児休業取得者または企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者”がいない場合であっても、
・計画期間内に、子の看護休暇を取得した男性社員がいること(1歳未満の子のために利用した場合を除く)。
・計画期間内に、中学校卒業前の子を育てる労働者に対する所定労働時間の短縮措置を利用した男性労働者がいること。
・計画期間とその開始前の一定期間(最長3年間)を合わせて計算したときに、男性の育児休業等取得率が10%以上であること。
・計画期間において小学校就学前の子を養育する男性労働者がいない場合、中学校卒業前の子または小学校就学前の孫について、企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者がいること。
この4項目のいずれかに該当すれば基準を満たすと判定されます。

2)の”計画期間内の女性労働者の育児休業等取得率が75%”未満だった場合でも、計画期間とその開始前の一定期間(最長3年間)を合わせて計算したときに、女性の育児休業等取得率が75%以上であれば基準を満たすと判定されます。

 

●えるぼし認定とは?
女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定・届出等を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした事業主は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)を受けることができます。
このうち、「2段階目」は「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5つの基準のうち、3つ又は4つを満たすことになります。
各基準の概要は以下となります。

(1)採用
男女別の採用における競争倍率が同程度であるか、または、正社員に占める女性労働者の割合が同種産業の平均以上であること。

(2)継続就業
女性の平均勤続年数が男性の平均勤続年数の70%以上であること。

(3)労働時間等の働き方
法定時間外労働および法定休日労働時間の合計時間数の平均が各月ごとに全て45時間未満であること。

(4)管理職比率
管理職に占める女性労働者の割合が同種産業の平均以上であること。

(5)多様なキャリアコース
いずれか1項目の実績があること。
・女性の非正社員から正社員への転換
・女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分の転換
・過去に在籍した女性の正社員としての採用
・おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用

くるみん認定もえるぼし認定も簡単な話ではありませんが、この機会に検討されてみてはいかがでしょうか。
これらは企業イメージ向上に資するものと考えることが出来ますよ。その上で税制優遇措置が付いてくるという”おまけ”があります。
ちなみに「女性活躍推進法」は現状では罰則規定はありませんが、徐々にその要求水準が上がってくることも容易に想定されるところです。

 

■まとめ
(1)控除率
給与等の増加要件:15%または30%
上乗せ
・教育訓練費    +10%
・働き方・女性活躍 +5%

合計すると、最大で45%の控除率を得ることが可能となります。

(2)令和6年改正の注目点
従前はせっかく控除率を獲得できたとしても、その年度に赤字決算等で控除すべき法人税が無い場合は無駄になっていました。
つまり、賃上げ等で100万円の控除があったとしても、その年の法人税額が発生しなければ何の控除もできずに終わっていました。
もう1つの注目点があります。それは控除には上限があるという点です。
賃上げ等を頑張って獲得した控除額も、「その事業年度の法人税額の2割が上限」というカットラインが存在します。
例えば、賃上げを1,000万円実行すれば300万円(1,000万円×30%(2.5%以上の増加))の控除ができるはずですが、
法人税額が500万円だった場合、その20%である100万円が上限となるため、これを超える200万は控除できないことになってました。
つまり、控除があっても法人税の20%を超える部分は切り捨てられていました。

この点が令和6年の税制改正で見直され、控除限度超過額を5年間に渡って繰越すことが認められました。
上記の例で言えば、初年度に控除できなかった200万円が繰越されることになります。
仮にこの翌年度に法人税が500万円発生すれば、その20%分の100万円を繰越した控除額から充当することができます。
このように、条件が揃えば5年間で無駄なく控除しきることが可能になります。
頑張って獲得した控除額が有限(5年)ではあるものの、どこかの年度で減税できる可能性が高まったことは、とても魅力的な改正だと思います。

※繰越して充当する場合には要件がありますのでご注意ください。
⇒繰越して控除しようとする事業年度においては、雇用者給与等支給額が前年度の雇用者給与等支給額を超えている必要があります。

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