【改正電子帳簿保存法】 現行法と令和5年度税制改正のポイント、必要な対応について

事業者には、国税関係の帳簿などについて保存義務が課されています。しかしすべてを書面として、つまり紙の状態で保存することを義務付けたのでは負担が大きいです。そこで「電子帳簿保存法」により、電磁的記録として保存することも認められています。

 

同法は1998年に施行されてから何度も改正を繰り返し、保存要件等も徐々に緩和されてきました。

当記事では2022年から施行されている改正法の内容、そして令和5年度税制改正が今後どのような影響を及ぼすのかをまとめます。

 

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法とは、「国税関係の帳簿の保存義務に関して、書面だけでなく電磁的記録としての備え付けや保存も認める」といった内容を規律した法です。

 

ただし、無制限にデータとしての保存を認めているわけではありません。

取引の態様や書類の受領・作成方法に応じて保存区分を設け、それぞれに保存要件を定めています。

 

同法で認められている保存区分は次の3つです。

 

  1. 1. 電子帳簿等保存(データで作成した書類をそのままデータで保存すること)
  2. 2. スキャナ保存(紙で作成・受領した書類をスキャン画像として保存すること)
  3. 3. 電子取引(電子的な取引に基づいて受領した書類をデータのまま保存すること)

 

なお、“契約書を電子化できるかどうか”については同法だけで判断できるものではありません。

 

例えば業務委託契約書やNDA、雇用契約書、委任契約書など、多くの契約書は電子化したものを交わしても問題ありません。

定期借地契約書、宅地建物売買等媒介契約書なども近年の法改正により電子化が可能です。
一方で、任意後見契約書は、任意後見契約法で公正証書によらなければならない旨が規定されています。事業用定期借地権設定のための契約書も同様に公正証書として作成しないといけません。農地の賃貸借契約書は公正証書である必要はありませんが、書面の作成が必要と規定されていること、その上で電子化を認める旨の規定がないことにより、紙での作成が必要になります。

 

契約の効力に関することと、事業者に課される各種書類の保存義務は、別問題として考えなくてはなりません。

「電子帳簿保存法の要件を満たせばすべての契約書を電子化できる」ということではないのです。

 

電子帳簿保存法の改正で何が変わったのか

近年でいうと、2022年に改正法が施行され、その内容に準拠することが求められています。以下では3つの保存区分に分けて、変わったポイントをまとめます。

 

電子帳簿等保存に関する改正のポイント

「電子帳簿等保存」は、帳簿などの書類を書面として作成するのではなく、電子的にデータとして作成したとき、そのデータのまま保存することを意味します。

この保存方法が認められることにより、システム上で作成した帳簿をわざわざ紙に印刷して保存する必要がなくなりました。

 

従来、税務署長から事前承認を受けることが求められていたのですが、2022年1月1日以降の分についてはこれが不要となっています。

 

また、保存するデータについて「真実性」「可視性」を確保することに加え、訂正や削除の履歴が残ることを必要としていましたが、こちらも要件緩和により不要となっています。現行法において満たすべき具体的要件は次の通りです。

 

  • ● 保存に関わるシステムの操作説明書やマニュアルなどの書類を備え付けること
  • ● 保存場所にて、見やすい形で速やかに出力できること
  • ● 税務職員の求めに応じてデータのダウンロードができること

 

スキャナ保存に関する改正のポイント

「スキャナ保存」は、紙で書類を受け取ったとき、または紙として作成した書類があっても、これをスキャンして画像データとして保存することを意味します。

 

2022年以降は、事前承認は不要です。

 

また、タイムスタンプ(データの作成日時の証明)の付与や検索についての要件が厳しく定められていましたが、こちらも緩和されています。

具体的には、「データの変更などについてシステム上に履歴が残るのであればタイムスタンプの付与が必要なくなる」「取引先や取引年月日、取引金額から検索ができるようにしておき、税務職員の求めたときにデータをダウンロードできれば良い(検索要件)」と改正されています。

 

なお、令和5年度税制改正の影響を受け、令和6年1月1日以後のスキャナ保存では「解像度や階調、大きさについての情報が不要」になります。

※解像度や階調の要件そのものがなくなるわけではないことに注意。

 

電子取引に関する改正のポイント

オンライン上でやり取りを行うことも珍しくありません。メールやチャットシステムを介して重要な書類をやり取りすることも増えました。

これら電子取引により受け取ったデータをわざわざ紙に印刷して保存するのは二度手間です。そこでデータをそのまま保存することも認められています。

 

この電子取引に関しては真実性確保の有無が重要で以下の措置が必要です。

 

  1. 1. 取引先によりタイムスタンプが付されたデータを受領する
  2. 2. 受領したデータに対して速やかにタイムスタンプを付す
  3. 3. データの訂正や削除記録が残るシステム(もしくは訂正や削除ができないシステム)を使用する
  4. 4. 改ざん防止等についての内部規程の策定と運用を実施する

 

また、取引先・取引年月日・取引金額でデータを検索できる状態にする必要があるのですが、一定以下の規模の事業者において、税務職員が求めたときにデータのダウンロードに応じることができるのならこの検索要件を満たす必要はなくなります。

 

このときの“一定以下の規模”とは、現行法だと“売上高1,000万円以下”とされていますが、令和6年1月1日からは“売上高5,000万円以下”にまで拡張されます。

さらに、「データをプリントアウトしたものが取引年月日・取引先別に整理されている」場合にも検索要件を満たす必要はなくなります。

 

2024年以降の電子取引における注意点

電子取引に基づいてデータを受領したとき、これを印刷して紙で保存することは認められていません。
2022年施行の改正法では、その保存義務が2023年いっぱいは猶予されており、年内に限りプリントアウトして保存することが認められていました。

 

しかし令和5年度税制改正により、以下の要件を満たせば、2023年に限らず猶予措置を受けることができます。

 

  • ● 保存時に電子取引データとして満たすべき要件を満たすことができず、そのことについて所轄税務署⻑が「相当の理由がある」と認めた
  • ● 税務調査などの場面で、当該書類の提示・提出に応じることができる

 

これまで主に紙を扱ってきたという企業にとっては嬉しい改正内容といえます。ただ、今後は電子契約の利用場面も増え、電子取引データの保存を要する場面も増えてきます。そのためできるだけ適切にデータ保存できる環境を整備しておくことが推奨されます。

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